
記述式は3問で60点。300点満点の試験で、ここだけが配点の5分の1を占めます。独学だと「書いた答案を誰にも見てもらえない」のが最大の悩みですが、実は過去問を並べるだけで、出題のかたちはかなりはっきり見えてきます。この記事では、過去10年(平成28年度〜令和7年度)の記述式を全問集計した結果をもとに、40字に何を書くか、どこを厚く準備するかを整理します。
この記事の要点
- 記述式を0点にすると、択一・多肢選択で184点中180点(97.8%)が必要になる。捨てる選択肢は事実上ない
- 過去10年の行政法10問のうち6問が行政事件訴訟法。「誰を被告に、どの訴訟か」型は5回出ている
- 民法19問の53%が債権。一方で親族・相続は10年で1問だけ
- 設問は平均2.2個の問いに分かれている。40字は作文ではなく、1要素18字の穴埋め
記述式を捨てると、択一で97.8%が必要になる
まず配点を確認します。行政書士試験は法令等244点・基礎知識56点の合計300点で、合格には3つの基準を同時に満たす必要があります(令和8年度試験のご案内より)。
| 区分 | 形式 | 問題数 | 配点 |
|---|---|---|---|
| 法令等 | 5肢択一式 | 40問 | 160点 |
| 法令等 | 多肢選択式 | 3問 | 24点 |
| 法令等 | 記述式 | 3問 | 60点 |
| 基礎知識 | 5肢択一式 | 14問 | 56点 |
| 60問 | 300点 |
合格基準は、①法令等科目が満点の50%以上(122点)、②基礎知識科目が満点の40%以上(56点の40%は22.4点なので、4点刻みでは24点=6問)、③試験全体が満点の60%以上(180点)です。
ここから逆算すると、記述式を捨てた場合に何が起きるかがはっきりします。記述式以外は択一160点+多肢24点=184点しかありません。
| 記述式の得点 | 択一・多肢(184点満点)で必要な点 | 必要な正答率 |
|---|---|---|
| 0点 | 180点 | 97.8% |
| 10点 | 170点 | 92.4% |
| 20点 | 160点 | 87.0% |
| 30点 | 150点 | 81.5% |
| 40点 | 140点 | 76.1% |
記述式0点なら、択一・多肢で落とせるのは4点だけ。5肢択一を1問間違えた時点で不合格が確定します。逆に記述式で20点(3問中1問相当)取れれば必要正答率は87.0%まで、30点なら81.5%まで下がります。
ソクのひとこと
過去10年の記述式を並べて分かること
平成28年度から令和7年度までの記述式を全問並べ、科目と論点で分類しました。10年間で30問ですが、平成28年度問45は、その後の民法(債権法)改正により現行法のもとでは成立しないため、以下は残る29問の集計です。
出題構成は行政法1問(問44)・民法2問(問45・46)で、この10年間ずっと変わっていません。
行政法10問は、6問が行政事件訴訟法
| 年度 | 論点 |
|---|---|
| 平成28 | 条例違反の過料(何法・どの機関・呼称) |
| 平成29 | 法律上の争訟(宝塚パチンコ店事件) |
| 平成30 | 申請書の返送/被告と訴訟類型 |
| 令和元 | 処分等の求め(行手法36条の3) |
| 令和2 | 出訴期間経過後/被告・対象・訴訟類型 |
| 令和3 | 行政指導の中止等の求め |
| 令和4 | 非申請型義務付け訴訟(被告・重大な損害・類型) |
| 令和5 | 差止訴訟+仮の差止め |
| 令和6 | 競願関係/被告と取消対象の処分 |
| 令和7 | 裁決固有の瑕疵/被告と抗告訴訟の類型 |
分野で割ると、行政事件訴訟法が6問(60%)、行政手続法が2問、その他が2問です。さらに絞ると、「誰を被告として、どのような訴訟を提起すべきか」を直接問う形式が5回(平成30・令和2・令和4・令和6・令和7)出ています。令和6年度と令和7年度は2年連続でこの型でした。
つまり行政法の対策は、取消訴訟の訴訟要件、義務付け訴訟・差止め訴訟、無効等確認・不作為の違法確認、当事者訴訟を選び分けられるかにかなりの部分が集約されます。被告適格(行訴法11条)は毎年書ける状態にしておきたいところです。
民法19問は、半分が債権
| 分野 | 出題数 | 割合 |
|---|---|---|
| 債権各論(契約・不法行為・事務管理) | 7問 | 37% |
| 総則(意思表示・代理・行為能力) | 4問 | 21% |
| 物権(担保物権を含む) | 4問 | 21% |
| 債権総論(債権譲渡・債権者代位) | 3問 | 16% |
| 親族 | 1問 | 5% |
債権総論と債権各論を合わせると10問で53%。民法の記述式は、半分が債権から出ています。具体的には不法行為の消滅時効(平成29)、工作物責任(令和3)、請負の契約不適合責任(令和5)、事務管理(令和7)、債権譲渡の譲渡制限特約(平成29・令和3)などです。
注目したいのは同じ論点が数年あけて戻ってくることです。債権譲渡の譲渡制限特約は平成29年度問45と令和3年度問45で、4年あけて出題されました。無権代理・表見代理も令和4年度問45(無権代理人を本人が単独相続)と令和7年度問45(日常家事債務と110条の趣旨類推)で近接しています。
一方で親族は10年で1問(平成28年度問46の財産分与)、相続はゼロです。ここは後で触れます。
40字に詰めるのは「平均2.2個の問い」
過去29問について、設問が明示的にいくつのことを聞いているかを数えました。
| 問いの数 | 問題数 |
|---|---|
| 1要素 | 7問 |
| 2要素 | 11問 |
| 3要素 | 10問 |
| 4要素 | 1問 |
2要素以上が22問(76%)、平均は2.2要素です。解答は答案用紙裏面のマス目に40字程度で書きますから、1要素あたり18字前後しか使えません。記述式が作文ではないというのは、この計算のことです。
たとえば令和7年度問44は、①主張しようとする瑕疵がどのようなものか、②誰を被告とするか、③どのような抗告訴訟を提起すべきか、の3つを聞いています。この3つを埋めれば形になり、背景説明を書き足す余地はありません。
ソクのひとこと
答案の骨格は、この型に流し込めばほぼ収まります。
誰が(主体) + 誰に・何に対して(相手・対象) + どういう場合に(要件) + 何をする/できる(効果・結論)
なお、採点基準は公表されていません。予備校の再現答案分析などから、条文や判例のキーワードを拾って加点する方式だと推測されていますが、公式に確認されたものではない点は押さえておいてください。確実に言えるのは、部分点があること、したがって白紙で出すのが最も損だということです。
令和8年度で警戒したい2つの変化
令和8年度試験は11月8日(日)午後1時から午後4時までです。この回に向けて、データから見える注意点が2つあります。
1つ目は、家族法改正です。 令和8年4月1日施行の民法改正で、離婚後の共同親権が導入され、法定養育費が新設、財産分与の請求期間が2年から5年に延長されました。前述のとおり親族は記述式で10年に1問しか出ていませんが、その1問がまさに財産分与(平成28年度問46)でした。改正直後の年度は条文が問いやすいテーマになりやすいため、令和8年の民法改正まとめは一度通しておく価値があります。ただし、これはあくまで出題傾向からの推測です。
2つ目は、行政法の「被告+訴訟類型」型が2年連続していることです。 3年続くかは分かりませんが、少なくとも書けない状態で本番に行くべきではない論点です。被告となる行政主体、取消しの対象、訴訟類型の3点を1セットで言えるようにしておきます。
独学での練習手順
添削者がいなくても、次の4段階で回せます。
- 土台をつくる。まず択一・○×で、条文と判例の正誤を判断できる状態にする。記述で書けない原因の多くは「知らない」ではなく「あいまいに覚えている」ことです。
- キーワードを先に出す。問題を見たらいきなり書かず、設問の疑問詞を数えて「主体・相手・要件・効果」を単語で並べる。ここで点数の大半は決まります。
- 40字に圧縮する。並べた単語を型に流し込む。書き終えたら模範解答とキーワードの一致だけを確認し、表現の違いは気にしません。
- 翌日もう一度書く。書けた問題ほど、時間を置いて再現できるかを試す。記述式は思い出す力の勝負です。
不足しがちなのは3や4ではなく、1の精度です。29問を見て分かるとおり、記述式で問われるのは択一と同じ条文・判例であって、特別な知識ではありません。あいまいなまま書く練習を重ねても、40字は埋まりません。
本試験での戦略
- 白紙は出さない。部分点があるので、思い出せた要素だけでも書きます。
- 時間配分。3時間で60問です。記述式に悩みすぎて択一を落とすのは本末転倒なので、択一を終えてから記述に十分な時間を残します。
- 完璧を狙わない。前掲の表のとおり、記述式は20点でも必要正答率が10ポイント以上下がります。満点を狙うより、3問すべてで部分点を拾いにいくほうが総得点は安定します。
○×一問一答で総点検
○か✕を選ぶと、正誤と解説が表示されます。記述式で問われる前提知識を確認しましょう。
記述式は3問出題され、配点は合計60点である。
記述式は、模範解答と完全に一致しなければ得点にならない。
取消訴訟を提起する場合、原則として処分をした行政庁の所属する国または公共団体を被告とする。
審査請求を棄却する裁決に固有の瑕疵がある場合でも、原処分の取消訴訟でその瑕疵を主張しなければならない。
不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。
まとめ
- 記述式3問60点。0点だと択一・多肢で184点中180点(97.8%)が必要になり、捨てるという選択肢は成立しません。
- 過去10年の行政法10問中6問が行政事件訴訟法。「誰を被告に、どの訴訟か」型が5回、うち直近2年連続。
- 民法19問の53%が債権。親族は10年で1問ですが、その1問が財産分与で、令和8年に家族法が改正されます。
- 設問は平均2.2個の問い。40字は作文ではなく、1要素18字で埋める穴埋めです。
- 採点基準は非公表。確実なのは部分点があることだけなので、白紙にしない。
出題の中心である訴訟類型は取消訴訟の訴訟要件と義務付け訴訟・差止め訴訟、債権分野は債務不履行と解除や債権者代位権と詐害行為取消権で確認できます。試験全体の配点と進め方は行政書士試験とは?科目・配点と独学の全体像、学習計画は独学で合格するための勉強法5選、科目の全体像は行政法とは?全体像と民法とは?全体像にまとめています。
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