
発起人と設立時取締役は、どちらも株式会社の「設立」に登場しますが、役割はまるで別物です。発起人は設立を企画して出資する中心人物、設立時取締役はその設立手続が適正かを調査する役。行政書士試験の商法では、この2つを入れ替えたひっかけが繰り返し出ます。なり方・出資義務・選任・責任の4点で、違いを一気に整理しましょう。
この記事の要点
- 発起人=定款に署名して設立を企画・出資する中心。設立時発行株式を1株以上引き受ける義務がある(25条2項)
- 設立時取締役=出資の履行後に選任され、設立経過を調査する役(46条)。それ自体に出資義務はない
- 選任は発起設立=発起人が、募集設立=創立総会が行う(88条)。なお両者は兼任できる
結論:「企画して出資する側」か「選ばれて調査する側」か
一番の軸はここです。
- 発起人…会社設立を企画・執行する中心。自ら定款に署名し、設立時発行株式を引き受けて出資する
- 設立時取締役…発起人が出資を終えた後に選任され、設立手続が法令・定款に違反していないかを調査する
発起人は「設立を進める側」、設立時取締役は「その進め方が適正かを点検する側」。この立場の違いを押さえると、後の論点が一本につながります。
一目でわかる比較表
| 観点 | 発起人 | 設立時取締役 |
|---|---|---|
| どうやってなるか | 定款を作成し署名・記名押印した者(26条1項) | 出資の履行後に選任される(38条) |
| 立場・役割 | 設立を企画・執行する中心(設立中の会社の機関) | 設立手続が適正かを調査する役(46条) |
| 株式引受・出資 | 1株以上の引受義務あり、出資する(25条2項) | 出資義務はなし(発起人を兼ねる場合は別) |
| 誰が選ぶか | 自らなる(定款に署名) | 発起設立=発起人の議決権の過半数(40条)/募集設立=創立総会(88条) |
| 会社不成立の責任 | 負う(連帯して責任・費用を負担、56条) | 負わない |
| 現物出資の不足額の填補 | 負う(52条) | 負う(52条・連帯) |
| 成立後 | 引き受けた株式の株主になる(50条) | 会社成立により取締役になる |
発起人とは(定款に署名し、出資する中心人物)
発起人は、定款を作成し、これに署名(記名押印)した者です(26条1項)。会社設立を企画し、定款作成・株式発行事項の決定・出資の履行・設立時役員の選任といった設立事務を執り行います。
重要なのは、各発起人は設立時発行株式を1株以上引き受けなければならない点です(25条2項)。つまり発起人は、必ず出資者=株主候補になります。会社が成立すれば、引き受けた株式について株主となります(50条)。
発起設立でも募集設立でも、発起人がいなければ設立は始まりません。発起人は「設立中の会社」の中心的な担い手だと押さえましょう。
設立時取締役とは(選ばれて、設立を調査する役)
設立時取締役は、会社の設立に際して取締役となる者で、出資の履行が完了した後に選任されます(38条1項)。発起人のように「自分でなる」のではなく、選ばれてなるのが出発点の違いです。
設立時取締役の中心的な仕事は、設立経過の調査です(46条1項)。具体的には、
- 出資の履行が完了していること
- 現物出資財産等の価額が相当であること(検査役の調査を省略できる場合の相当性など)
- 設立の手続が法令・定款に違反していないこと
を調査します。調査の結果、法令・定款違反や不当な事項があれば、発起設立では発起人に通知し(46条2項)、募集設立では創立総会に報告します(93条)。
設立時取締役それ自体には出資義務はありません。出資するのはあくまで発起人です(ただし、実際には発起人が設立時取締役を兼ねることが多く、その場合は発起人として出資します)。
誰が選ぶ?──発起設立と募集設立で違う
設立時取締役を誰が選任するかは、設立方法で分かれます。ここは頻出です。
- 発起設立…発起人が選任します。発起人の議決権の過半数で決定し、各発起人は設立時発行株式1株につき1議決権を持ちます(38条・40条)。
- 募集設立…創立総会の決議で選任します(88条)。募集に応じた株式引受人も含めて、創立総会で選ぶのが特徴です。
「発起設立でも創立総会で選ぶ」と書かれたら誤りです。創立総会は募集設立に固有の手続だと覚えておきましょう(発起設立と募集設立の全体像は発起設立と募集設立の違いで整理しています)。
責任の違い──「会社が成立しなかったとき」がカギ
両者は設立に関する責任を負いますが、会社が成立しなかった場合の責任に決定的な差があります。
- 現物出資の不足額填補責任(52条)…現物出資財産等の価額が定款記載額に著しく不足するとき、発起人と設立時取締役が連帯して不足額を支払う義務を負います。なお募集設立では重く、過失がなくても免れることができません(103条)。
- 任務懈怠責任(53条)…発起人・設立時取締役が設立についての任務を怠ったときは、会社に対し連帯して損害賠償責任を負います。
- 会社不成立の責任(56条)…会社が成立しなかったときは、発起人が連帯して、設立に関してした行為について責任を負い、支出した費用を負担します。これは発起人だけの責任で、設立時取締役は負いません。
ソクのひとこと
試験で狙われるひっかけ5選
- 「設立時取締役は、設立時発行株式を1株以上引き受けなければならない」→ ✕: 1株以上の引受義務があるのは発起人です(25条2項)。設立時取締役にこの義務はありません。
- 「発起設立では、設立時取締役は創立総会で選任される」→ ✕: 創立総会は募集設立の手続です(88条)。発起設立では発起人が議決権の過半数で選任します(38条・40条)。
- 「設立手続が法令・定款に違反していないかは、発起人が調査する」→ ✕: 設立経過の調査義務は設立時取締役にあります(46条)。発起人は調査される側、つまり設立を執行する側です。
- 「会社が成立しなかったとき、設立時取締役は連帯して費用を負担する」→ ✕: 会社不成立の責任は発起人が負います(56条)。
- 「発起人と設立時取締役を同一人物が兼ねることはできない」→ ✕: 兼任できます。中小企業では、発起人=設立時取締役=成立後の取締役が同一人であることが一般的です。
○×一問一答で総点検
○か×を選ぶと、正誤と解説が表示されます。まずは自分で答えてみましょう(アウトプット練習)。
発起人は、設立時発行株式を1株以上引き受けなければならない。
設立時取締役は、設立に際して出資の履行をする義務を負う。
発起設立においては、設立時取締役は発起人が選任する。
募集設立においては、設立時取締役は発起人の議決権の過半数によって選任される。
設立時取締役は、出資の履行が完了していることなど、設立の経過を調査しなければならない。
よくある質問(FAQ)
Q. 発起人と設立時取締役の違いは?
A. 発起人は定款に署名して設立を企画・出資する中心人物で、設立時発行株式を1株以上引き受ける義務があります。設立時取締役は出資の履行後に選任され、設立手続が適正かを調査する役で、それ自体に出資義務はありません。
Q. 発起人が設立時取締役を兼ねることはできますか?
A. できます。中小企業では、発起人がそのまま設立時取締役になり、会社成立後の取締役にもなる、というケースが一般的です。ただし役割や責任の概念は別物として整理しておきましょう。
Q. 設立時取締役は誰が選びますか?
A. 発起設立では発起人(議決権の過半数)が、募集設立では創立総会が選任します。創立総会は募集設立に固有の手続です。
まとめ
- 発起人=定款に署名して設立を企画・出資する中心(1株以上の引受義務、25条2項)/設立時取締役=選任されて設立経過を調査する役(46条)。
- 設立時取締役の選任は、発起設立=発起人、募集設立=創立総会(88条)。
- 会社不成立の責任(56条)は発起人だけ。現物出資の不足額填補(52条)は両者が連帯。
- 発起人と設立時取締役は兼任できるが、概念は別。入れ替えたひっかけに注意。
設立方法そのものの違いは発起設立と募集設立の違い、成立後の取締役の義務と責任は取締役の義務と責任で深掘りできます。商法の全体像は商法とは?会社法の全体像で俯瞰しましょう。
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