
損失補償と国家賠償の違いは、まとめて「国家補償」と呼ばれる分野の入口で、頻出論点です。カギは「違法か、適法か」。国家賠償は違法な公権力の行使による損害、損失補償は適法な公権力の行使による特別の犠牲を対象とします。根拠条文・要件を比較表と○×で整理します。
この記事の要点(3行まとめ)
- 国家賠償=違法な公権力の行使による損害(憲法17条/一般法あり=国家賠償法)
- 損失補償=適法な公権力の行使による特別の犠牲(憲法29条3項/一般法なし=個別法に規定)
- 見分けるカギはただ一つ、原因行為が**「違法」か「適法」か**
結論:「違法」なら賠償、「適法」なら補償
国や公共団体が国民に与えた損害をカバーする仕組みを、まとめて国家補償といいます。その2本柱が国家賠償と損失補償です。
- 国家賠償:違法な公権力の行使(公務員の違法行為など)で生じた損害を賠償する(憲法17条を受けた国家賠償法が一般法)
- 損失補償:適法な公権力の行使(公共事業のための土地収用など)で特定の人に生じた特別の犠牲を補償する(憲法29条3項。一般法はなく、土地収用法など個別法に規定)
最大の違いは、原因となった行為が違法か適法かです。ここを取り違えると制度ごと間違えます。
違法か適法か——フローで振り分け
比較表でひと目で整理
| 国家賠償 | 損失補償 | |
|---|---|---|
| 原因行為 | 違法な公権力の行使 | 適法な公権力の行使 |
| 根拠 | 憲法17条 | 憲法29条3項 |
| 一般法 | あり(国家賠償法) | なし(個別法に規定) |
| 目的 | 被害者の救済(過失への賠償) | 財産権侵害の公平な調整 |
| キーワード | 故意・過失/瑕疵 | 特別の犠牲/正当な補償 |
| 例 | 公務員の違法行為・道路の瑕疵 | 土地収用・都市計画制限 |
国家賠償とは(違法な行為への賠償)
国家賠償は、違法な公権力の行使による損害を賠償する制度です。公務員の違法な職務行為(1条)と、公の営造物の設置・管理の瑕疵(2条)の2類型があります。詳しくは国家賠償法1条と2条の違いで解説しています。
損失補償とは(適法な行為への補償)
損失補償は、適法な公権力の行使によって、特定の人に特別の犠牲が生じた場合に、公平の見地からこれを補償する制度です。
- 根拠は憲法29条3項(「正当な補償の下に」私有財産を公共のために用いることができる)。
- 一般法はありません。土地収用法などの個別法に規定されています。ただし、個別法に補償規定がなくても、憲法29条3項を直接の根拠として補償を請求できる場合があると解されています。
「特別の犠牲」の判断基準
補償が必要となる「特別の犠牲」かどうかは、次の2点で判断されます。
- 形式的基準:侵害が特定の人を対象とするものか(広く一般的な制約なら補償不要に傾く)
- 実質的基準:財産権に内在する社会的制約として受忍すべき限度を超えるか
「正当な補償」の意味(完全補償説と相当補償説)
「正当な補償」がどこまでを指すかには2説あります。
- 完全補償説:失われた財産価値を全額補償すべき
- 相当補償説:その状況で相当と認められる額で足りる
判例は、戦後の農地改革による農地買収については相当補償でよいとしつつ、土地収用については原則として完全な補償を要するとしています。
ソクのひとこと
試験で狙われるひっかけ4選
- 「損失補償は、違法な公権力の行使による損失を対象とする」→ ✕: 損失補償は適法な行為が前提です。
- 「損失補償についても、国家賠償法のような一般法がある」→ ✕: 損失補償に一般法はありません(個別法に規定)。
- 「個別法に補償規定がなければ、およそ補償は受けられない」→ ✕: 憲法29条3項を直接の根拠に請求できる場合があります。
- 「正当な補償とは、つねに完全補償を意味する」→ ✕: 農地改革では相当補償で足りるとされました。
○×一問一答で総点検
Q1. 国家賠償は違法な公権力の行使を、損失補償は適法な公権力の行使を、それぞれ前提とする。
○: この「違法か適法か」が両者を分ける最大のポイントです。
Q2. 損失補償については、憲法29条3項を受けた一般法が制定されている。
✕: 損失補償に一般法はなく、個別法に規定されています。
Q3. 損失補償の要否は、特別の犠牲に当たるかどうかで判断される。
○: 形式的基準(特定の人か)と実質的基準(受忍限度を超えるか)で判断します。
Q4. 判例は、土地収用に伴う損失補償について、つねに相当補償で足りるとしている。
✕: 土地収用については原則として完全な補償を要するとしています(相当補償で足りるとされたのは農地改革)。
よくある質問(FAQ)
Q. 国家補償の「谷間」とは? A. 適法とも違法とも言い切れない、あるいは過失の立証が難しい損害(予防接種の副反応など)では、国家賠償でも損失補償でも救いにくい「谷間」が生じます。憲法29条3項の類推などで救済が議論される論点です。
Q. 個別法に補償規定がないときは? A. 補償規定がなくても、憲法29条3項を直接の根拠に補償を請求できる余地があると解されています(「規定がない=補償ゼロ」とは限りません)。
Q. 国家賠償と損失補償は同時に問題になる? A. 原因行為が違法か適法かで制度が分かれるため、基本は択一的です。ただし複合的な事案では、それぞれの要件で別個に検討されることがあります。
まとめ
- 国家賠償=違法な公権力の行使(憲法17条/一般法=国家賠償法あり)。
- 損失補償=適法な公権力の行使による特別の犠牲(憲法29条3項/一般法なし)。
- 「正当な補償」は完全補償説と相当補償説。農地改革=相当補償、土地収用=完全補償。
国家補償は「違法か適法か」の一点を○×で繰り返すと混乱しません。あわせて国家賠償法1条と2条の違い、取消訴訟の原告適格と処分性もどうぞ。
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