
賃貸借(民法601条)は、行政書士試験の民法で頻出の契約類型です。カギになるのは敷金・原状回復・賃借権の譲渡転貸・対抗の4点。2020年施行の改正民法で条文化されたルールと判例(信頼関係破壊の法理)を、図表と○×でわかりやすく整理します。
この記事の要点
- 敷金(622条の2)=賃借人の債務を担保する金銭。返還は明渡しが先、敷金返還が後(同時履行ではない)
- 原状回復(621条)=借りた後の損傷が対象。ただし通常損耗・経年変化は対象外
- 無断の譲渡・転貸(612条)は解除事由。ただし背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除できない(判例)
- 不動産賃借権は登記で対抗(605条)。加えて借地借家法で建物の引渡し等でも対抗できる
敷金:返還は「明渡しが先」
敷金とは、いかなる名目かを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づく賃借人の債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭です(622条の2)。賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還(明渡し)を受けたときに、未払賃料などを差し引いた残額を返還します。
ポイントは順序です。明渡しが先、敷金の返還が後であり、賃借人は「敷金を返すまで明け渡さない」という同時履行の主張はできません。また、賃貸人は賃借人の未払賃料に敷金を充当できますが、賃借人の側から「敷金を未払賃料に充ててほしい」と請求することはできません。
原状回復:通常損耗・経年変化は含まない
賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷について、賃貸借の終了時に原状回復義務を負います(621条)。ただし、次のものは対象外です。
- 通常の使用収益によって生じた損耗(通常損耗)
- 経年変化
つまり、普通に住んで自然に古くなった分まで元に戻す義務はありません。また、損傷が賃借人の帰責事由によらないものであるときも、原状回復義務を負いません。
賃借権の譲渡・転貸:無断はダメ、でも信頼関係次第
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲渡したり賃借物を転貸したりできません(612条1項)。無断で第三者に使用収益させたときは、賃貸人は契約を解除できます(同2項)。
もっとも判例は、無断譲渡・転貸があっても、それが賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除できないとしています(信頼関係破壊の法理)。なお、賃貸人の承諾を得た適法な転貸では、転借人は賃貸人に対して直接に義務を負います(613条)。
不動産賃借権の対抗
「売買は賃貸借を破る」が原則ですが、不動産賃借権には対抗手段があります。
- 賃借権の登記があれば、その後に不動産について物権を取得した者にも対抗できます(605条)。
- さらに借地借家法により、建物賃貸借は建物の引渡し、借地は借地上の建物の登記で対抗力が生じます。
ソクのひとこと
試験で狙われるひっかけ4選
- 「賃借人は、明渡しと敷金返還を同時履行の関係で主張できる」→ ✕: 敷金返還は明渡しの後です(622条の2)。同時履行の関係には立ちません。
- 「賃借人は、通常の使用による損耗(通常損耗)についても原状回復義務を負う」→ ✕: 通常損耗・経年変化は対象外です(621条)。
- 「賃借人が無断で転貸して第三者に使用させれば、賃貸人は常に解除できる」→ ✕: 背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除できません(判例)。
- 「建物賃貸借は、賃借権の登記がなければおよそ第三者に対抗できない」→ ✕: 借地借家法により建物の引渡しで対抗できます。
○×一問一答で総点検
○か×を選ぶと、正誤と解説が表示されます。まずは自分で答えてみましょう(アウトプット練習)。
敷金は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、未払賃料等を控除した残額を返還すれば足りる。
賃借人は、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗についても、原状回復義務を負う。
賃借人が賃貸人の承諾なく賃借物を転貸した場合でも、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は契約を解除できない。
賃借権の登記がなければ、建物の賃借人はいかなる方法によっても賃借権を第三者に対抗できない。
よくある質問(FAQ)
Q. 敷金はいつ返ってきますか?
A. 賃貸借が終了し、かつ物件を明け渡したときです。明渡しが先で、賃貸人は未払賃料などを差し引いた残額を返します(622条の2)。明渡しと敷金返還は同時履行の関係に立ちません。
Q. 原状回復はどこまで必要ですか?
A. 借りた後に生じた損傷が対象ですが、通常の使用による損耗(通常損耗)や経年変化は含まれません(621条)。賃借人の責めによらない損傷も対象外です。
Q. 無断で又貸しすると必ず契約を解除されますか?
A. 原則として解除できます(612条)。ただし、賃貸人への背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは解除できません(信頼関係破壊の法理・判例)。
まとめ
- 敷金(622条の2)=明渡しが先、敷金返還が後。賃借人からの充当請求は不可。
- 原状回復(621条)=通常損耗・経年変化は対象外。
- 無断の譲渡・転貸(612条)=原則解除できるが、背信性がなければ解除不可。
- 不動産賃借権は登記(605条)や借地借家法の引渡し等で対抗。
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